おなじゆめをみて

主に丈一郎くんと関西Jr.についての覚え書き

リューン・フローはどうして剣を置いたのか

「リューン」の幕が閉じてしまったよ~…1回きりの観劇でも話が理解できるし、回を重ねてもおもしろい。そんな舞台だった。自担の初主演舞台だよみたいなべそべそした感想はまた今度書くとして、この舞台のストーリーの疑問のひとつである、どうしてフローは最後の場面で剣を地面に置いたのか?という問いに、自分なりの答えを出したいと思います。そしてフローにとってこの結末は幸せなのか?というところも同時に考えたい。


ストーリーをざっと追いながら私なりの解釈をまとめていきます。台詞はニュアンスです。

リューン・フローとリューン・ダイが家族を殺され故郷を失って10年。ルトフの里を第二の故郷として平和に楽しく暮らしていたのに、10年前と同じようにダナトリア率いるカダ王国がルトフの里の人々を殺し、里を焼き尽くそうとしている。その場面を目の当たりにしたダイは滅びの剣を手にしてしまう。10年前、もっと自分に力があったら故郷は救えたかもしれないと自分を責めて剣の修行を続けるダイだから、絶対的な力をもつ滅びの剣の力を借りて、ダナトリアを殺そうとする。滅びの剣は、一度手にしてしまうと自分の意思に反して目の前の人を殺さざるを得なくなるという呪いの剣。そんな滅びの剣にあやつられてルトフの里の人を斬りつけながら「ちがう、俺じゃない」と繰り返すダイ。
ダイは滅びの剣を手にしたままフローの前から姿を消してしまう。そしてフローは尊敬するダイス先生の一度滅びの剣を手にしてしまったら自分で自分の手を切り落とすこともできず、ただ剣の奴隷として目に映った人を殺すしかないという発言を受けたから、ダイと約束をしていたから、ダイを殺す決意をする。そうしてリューン・フローの冒険という旅がはじまります。

フローとダイはまるで本当の兄弟のように仲が良く、フローが光でダイが影、背中合わせの関係です。先述したフローとダイの約束というのは以下のものなんですけど、この約束は劇中で何度も繰り返され、この物語のキーとなります。

フロー「剣は人を殺す道具だよ!忘れないで。」
ダイ「大丈夫!俺にはお前がいる。もしも俺が道を誤ったときは、お前が俺を救ってくれる。そうだろ?」
フロー「約束する。この身を挺してでも!」

ダイを殺しに行く旅は、滅びの剣を手にしてどこかへ行ってしまったダイとの約束を果たすための旅であり、ダイを救うための旅。滅びの剣に関してダイス先生の言葉が全てであるフローは、殺すことでしかダイを救えないと考えているので、約束を果たすためにダイを殺すと決意するんですね。悲しい。

また、この約束は「たとえダイに殺されることになったとしても、ダイを助ける」という意味だと私は思っています。旅の途中、滅びの剣に対抗するドルデンの魔剣を手に入れるためにたたら島に立ち寄りダナトリアと対峙したときは、

フロー「リューン・ダイはあなたを殺すまで殺戮をやめないだろう。世界を滅ぼす気だ。僕は代償とか復讐とか正義とか報復とかはよく分からない。ただ、リューン・ダイを助けてあげたいんだ。」
ダナトリア「殺すことで。」
フロー「ああ。そうだ!」

という会話をしています。何度も繰り返しますが、フローはダイを殺すために旅をします。「剣は人を殺す道具だよ!」と言っていたフローが剣を手に入れたということもそういうことだよね。ダイを救うためなら自分の腕も犠牲にしてしまう。自分の腕を失ってもダイとの約束を果たそうという気持ちは強いのです。

ここで最初に戻るんですけど、ダイを救うため、約束を果たすためにダイを殺そうとしていたのに、どうしてフローは最後に剣を置いてしまうのか?ということを考えたいのです。このたたら島の場面ではダイを殺そうとしていたことが明言されているので、どの場面でフローに心境の変化があったのかを考えることでこの問いへの答えを出したいと思います。


たたら島から場面は一気にとんで、腕を失くした後、耳と声まで奪われてしまったフロー。地球(ほし)の呼吸を聞き、抜き身の剣を手にしてダイのもとへ走ります。そして剣を交える。つまりダイと対面してもなお、フローは「ダイを殺そう」としていると考えられます。

それからファンルンの手下に次いでファンルンとダナトリアも死に、フローは笛を吹く。風の魔法使いが現れ、戦の声と血と骨で固まってしまってできた滅びの剣を風に戻すためには剣を生み出し固めた心の逆を歌う必要があるというようなこと言うと、魔法道具使いの力により声を取り戻したフローが歌い始めます。(便宜上赤をフロー、青をダイ、紫がフローとダイ、ピンクをエルカとします。)

ひとり焼け跡を どこまでも歩いた
ひとり腹ペコのまま 歩き続けた
見つけたパン
奪うはずが
二つに分け
渡してくれた
ねえ君は
誰なんだ
もたれ合って5日眠った
もう死ぬんだそう思ったとき

歌が聞こえた フローリアの歌が
闇を切り裂く それは光だった

ある朝 旅から
ママが連れてきたの二人
身も心も 傷ついてた
花 夢 空 愛 歌や踊りや
素敵なものが この世にはいっぱいある
一緒に笑い 泣くことが 生きることよ
教えてあげたかった

剣を生み出し固めた心というのは憎しみや嫉妬や復讐といったマイナスの気持ちのことで、その逆というのは調和や平和であるとかそういうプラスの気持ちのことであると考えます。そしてこの曲*1の歌詞そのものだと考えられます。フローとダイ、そしてエルカの3人で歌い上げられる曲。調和の3。

そして剣を生み出し固めた心の逆を歌うことで風に戻るということはつまり、目の前の人を見境なく殺してしまうという滅びの剣の呪いが解けるということと同義であるはず。ダイが滅びの剣を持った当初は、自分の意思とは裏腹にダイの体が剣に操られるかたちで目の前の人を殺していましたが、この場面ではもう滅びの剣の呪いに飲まれていて、ダイは自我を失っています。このことにフローが気付いているのか分からないけど、滅びの剣が風に戻ればダイも元通りになるはず。

現にこの歌最後のエルカのパートが終わった後、ダイはもがき苦しんでいました。これは自身の自我と、ダイの中のマイナスの気持ちを引き出し取り込もうとする滅びの剣との葛藤のようなものが、この歌によって引き起こされたから起きた行動だと考えられます。葛藤というか滅びの剣のマイナスな気持ちと同化してしまっていたけど、この歌によってプラスの気持ちを思い出したみたいな。


ここからさらに私がそう感じたという話でしかないけど、このエルカの歌(言葉)を聞いているときのフローがとっても良い顔をするんですよね。特に「素敵なものがこの世にはいっぱいある」以降。だから私はここでフローに心境の変化があったんじゃないかなと考えます。まさかの一番大事なところで自分の想像に頼っちゃうけど、続けます。

この歌のフローとダイの言葉(歌詞)から、フローは10年前に故郷が奪われた後ダイとエルカと出会った、その時の気持ちを思い出したのではないかなと思いました。今ルトフの里の人の多くが(ダナトリアとダイによって)殺され、自分の片割れのようなダイもいなくなってしまった。この状況はおそらくフローにとって10年前の出来事と同じ絶望だった。

そしてエルカの言葉によって、両親も故郷も失ってしまって途方に暮れていたときにフローリアに拾われてルトフの里で暮らすようになったことで、絶望が希望へ変わったことを思い出した。真っ暗だった世界に色が生まれた、その気持ちを思い出したんだと。きっとまた平和を取り戻すことができる。「未来はまだ変えられるから」。調和を取り戻すことができるはず。フローはここでそう考えた。

もしダイを殺してダイを救うことができても、フローが死んでも、もう「一緒に笑い泣くこと」はできなくなってしまう。だからフローはダイを殺すことをやめた。殺すことができなくなった。ダイが「道を誤った」ときに「救う」ということは殺すことではなく「道を正す」ことなんだと考えた。

さらにフローはダイに対してこう続けるわけです。

もし恨み晴らせば 続くだろう
復讐の連鎖が
だから風の歌を歌う
約束だね きみをとめる

ダイの肩に手を置き、語り掛けるように歌うフロー。
この解釈が受け手によって大きく違いそうだけど、ここでは「人が人を殺すことは復讐を生み出し続けることだ。それは止めにしよう。だから僕は剣を持たずに平和のために祈るよ。ダイの進む道を正すことが約束だったよね。」みたいなことだとします。

風はいつでも未来に向かう出口があると風の魔法使いも言っているし、このエントリーでは省くけどこの物語の風は未来へ進もうとするときに吹くと私は考えています。風を起こす魔法道具を使うのもそういう場面です。そして「僕の歌は祈りだ。だから僕は死んだ人のために歌っているんだ!」とフローは言うので、フローにとって歌うことは祈ることなのです。死んだ人のために歌うことも祈りだけれど、ダイの道が正しくあるよう願うことも祈りだから、フローは平和を願ってダイの進む道を正そうとした。

自分の持っている剣を一瞥し地面に置くフローに対し、フローに剣を振りかざすダイ

エルカ「なにをするつもり!リューン・フロー!」

剣を振りかざすダイと向き合い、エルカを守るように立つフロー

フロー「約束したんだ!道を誤ったときは!」
フロー「僕が身を挺して、君を救うと!」

フローはこの場面でこうも思ったんじゃないかな。
自分と同じようにダイも歌の力によって正気を取り戻すと信じていた。風の魔法使いの言うことを信じて、歌を歌うことで滅びの剣が風に戻り、ダイも剣を手放すことができると思った。ずっと一緒だった自分が語り掛ける言葉で元に戻ると信じた。自分が剣を置いて戦う意思が無いことを示して見せることで、ダイが我に返るのではないかと考えた。自分が剣を置くことこそが、身を挺してダイを救うことになる。つまり滅びの剣を持つダイの前に身を投げ出してみせることが身を挺してダイを救うことになると考えた。「自分の行動を予測できない蜂」だから体が勝手に動いた。なにがしかの風の声が聞こえた。
だから希望的観測が外れて自分が死ぬことになっても、フローにはダイを殺すことができなかった。誰かを傷つけることは平和のためにはならないから。


歌を終えてもなおダイはフローに剣を振りかざしているので、残念ながら「約束」の歌を歌っただけでは滅びの剣が風に戻ることはなかったんだよね。結果として、ダイス先生がフローを庇ったことで死に、滅びの剣が風に戻ることで、フローの旅は幕引きを迎えます。
ダイス先生は死んでしまったけど、フローはダイを殺さずに済んだ。そして、

エルカ「遠くの声が聞こえる才能って、もしかしたら魔法なんじゃないかしら?」
フロー「でも聞こえても、それをどうすることもできない。ただ聞くしかないんだ。」

と言っていたフローは、弔いの旅をするダイの風の中の声を聞くことができる。フローはきっと大好きなルトフの里で大好きなお芝居をして平和を願って歌い踊るんだろうな。そうして調和を愛して、調和を形成して生きていくはず。


最後に。フローはなぜ剣を置いたときに風の魔法の歌(呪文)を歌わないのかも疑問のひとつだったんですよね。焚火の場面でエルカに指摘されたように、風の魔法の歌を唱えることで滅びの剣を持った人の動きを止められたんだから、ここで風の呪文の歌を歌わないのはどうしてなんだろう、と思っていました。単に咄嗟に出てこなかったのかもしれないけど、一度歌を失ったフローにとって風の魔法の歌は、もはや意味のないものだったのかもしれないね。たとえ魔法が無くても、平和を取り戻し生きていこう。そういうことなんじゃないかな。

戦争と平和。「人は獣さ歴史を見ろよ 平和の前は殺戮*2」だとファンルンは言っていたけど、どれだけ非情なことが起こっても、辛い過去の記憶に打ち勝って人はまた一から平和を作ってきたんだよね。過去は変えられないけど未来はまだ変えられるから調和を愛して生きていこう、そういうことが主題なんじゃないかな?といったところで一番初めに立てた問いへの答えとします。


余白が多いから難しいどうとでもとれるからね〜…自分の行動を予測できない蜂の行動を考えることができたのか分からないけど、とりあえずこの話はこれで一旦おしまい!メインテーマはじゃに舞台と近いものがあるよな〜と思いました!寝る!

*1:「約束」というタイトル

*2:このあと三文字くらい聞き取れないから誰か教えて